東京三弁護士会(東京弁護士会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会)及び関東10県の弁護士会によって構成される関東弁護士会連合会において、平成28年9月9日、「医療と子どもの権利~子どもの成長発達と自己決定~」をテーマとするシンポジウムが開催されました。
シンポジウムの実行委員は40名強、それぞれ、教育・保育部会、療養環境部会、主体的参加部会に分かれて調査・検討を行いました。私はシンポジウム実行委員会副委員長、主体的参加部会部会長として活動しました。
調査は、関弁連管内所在の医療機関へのアンケートや視察、教育委員会の訪問、また、当事者の視点として、患者さんを守る会や親御さんの会などからもお話を伺いました。その結果は、視察等の報告書を合わせ550頁の報告書にまとめられました。
シンポジウム当日は、以下のとおり、講演と、各部会からの報告等を行いました。
まず冒頭、院内学級での教育などに取り組んでおられる「あかはなそえじ」こと副島賢和先生からお話を頂きました。
退院したあと再び具合が悪くなって再入院となった子どもに、再入院当日はたまたま仕事で遅くなってしまい面会に行けず、「また明日」と思って帰宅したところ、その日に亡くなってしまったというご経験から、「子どもたちのことで『明日』と思うのは絶対にやめよう」と決意されたお話など、涙なしでは聞けないお話をたくさん聞かせて頂きました。
次に、教育・保育部会から、病を抱える子どもたちの教育・保育について、具体的な問題点について場面を設定しての報告がなされました。
保育の報告の際には、病院内で保育士として働く方を助言者としてお招きし、実際の子どもたちとのかかわりについて、写真を交えてのお話も頂きました。
子どもたちにとって「遊び」の持つ意味は非常に大きく、成長発達のために欠かせないものであるということ、また、入院中の子どもたちが教育・保育から遠ざかってしまうという問題は思いつき易いところですが、入退院を繰り返す子どもや在宅療養中の子ども、気管切開をしておりたんの吸引が必要など医療的ケアを要する子どもたちについても権利が制限されている現状があること、などの説明がなされました。
続いて療養環境部会より、入院中の子どもの療養環境の問題について、虫垂炎を発症した8歳の女の子について、①初診時、②入院中、③退院後、手術を受ける前の説明と、それぞれ場面を分け、寸劇を用いながらの報告がなされました。
①の初診時には採血が嫌だと泣く子どもが「ママと一緒ならやる」と言ったのに、医師から親は処置時に同席させない決まりだからダメだと言われてしまう場面、②の入院中には「今日は誕生日だからお父さん来てくれるかな~」と待っている子どもに会いに行きたいのに、残業で遅くなり面会時間を過ぎてしまった父親が、病院の受付に時間外の面会はダメとすげなく断られてしまう場面が演じられ、問題点が指摘されました。
最後の③の場面では、チャイルドライフスペシャリスト(CLS)という子どもの心理社会的支援の専門職の方から、子どもに対する分かり易い説明(プレパレーション)の実演がなされました。
絵や、実際の医療器具を用い、子どもが五感(話を聞く、絵を見る、器具を触る、嗅ぐ(麻酔の吸入口に好きな香りを付けられるということでした。)など)を使って理解を深めていくのが分かりました。
最後に、主体的参加部会から、冒頭では寸劇、その後パネルディスカッションの二部構成で報告がなされました。冒頭の寸劇では、日本で医療同意年齢が15歳と法定されたら?という設定で、医師が検査の説明同意書をたんたんと読み上げ、子どもにサインさせようとし、母親がなんで子どもにやらせるの、法律だかなんだかしりませんがそんなの認めません!と憤る、というものを行い、これを導入として、医療同意年齢の法定や、そもそも子どもに「同意する権利」、「意見を表明する権利」、同意や意見を述べる前提としての「説明を受ける権利」はあるのか?医療現場ではどのように対応しているか?といったことについて、小児医療に携わる医師及びCLSの方、医事法・英米法を専門とする法学者の方をパネリストとしてお招きし、ディスカッションを行いました。
パネルディスカッションでは、親子の意見が対立し、治療に対して子が積極・親が消極という場合と、子が消極・親が積極という場合をそれぞれ取り上げ、現場での対応や、法的な指摘がなされました。
私自身は主体的参加部会の寸劇における母親役と、パネルディスカッションのコーディネーターを担当しました。
このシンポジウムの調査・検討を通じて、今までなんとなく、「そうすべき」「そのほうがよい」と思っていたことを、「そもそも『権利』なの?」「その根拠は?」とあらためて問い直すよい機会となりました。
また、医療現場では、日々、皆さんが、それぞれの専門性を活かして尽力されていることも分かりました。
しかしその一方で、なお、せっかくの「権利」が実質的に保障されていない面が残念ながらあるという現状もありました(例えば医療機関に対するアンケート調査の結果では、親子の意見が対立した場合、親の意向に沿うとの意見が多数でした。)。
「医療と子どもの権利」は、これまで弁護士会でもあまり取り上げられてこなかった分野だと思いますので、今後とも引き続き、弁護士としてできることは何かを問い続けていきたいと思っております。